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記憶障害|脳梗塞の後遺症を乗り越えるために

脳梗塞の後遺症を乗り越えるために~症状と対策法~

記憶障害

脳梗塞の後遺症として起こる記憶障害は、目には見えないけれど患者さん本人にとっては大きなストレスとなる困った症状です。ご家族に脳梗塞に起因する記憶障害が起こってしまったときのために必要な心構えとは、どのようなものでしょうか。基礎的な知識と一緒に見ていきましょう。

脳梗塞と記憶障害の関係

記憶障害とは、脳梗塞の後遺症として起こる高次脳機能障害の1つです。脳梗塞によって、知識や経験を記憶したり、それらを元にものごとを判断したりといった認知活動を行っている脳の領域に損傷を受けると、こうした認知活動に支障をきたす場合があります。このうち、記憶に関係する障害を、「記憶障害」と呼びます。

記憶障害の出方や重症度は、脳梗塞の発生した箇所や損傷の大きさによってまちまちです。患者さんごとに、症状の程度や現れ方も違います。ものごとを記憶する、記憶したことを思い出すという脳のはたらきには、前頭葉、側頭葉、大脳辺縁系など脳の様々な領域が複合的に関わり合っています。そのため、脳のどの部分で起こった脳梗塞でも、記憶障害の原因となる可能性がありえるのです。

記憶障害の症状

脳が持つ記憶は、以下の3つに大別することができます。(※1)

・エピソード記憶(経験や出来事に関する記憶)

・意味記憶(一般常識のような知識)

・手続き記憶(電球の交換方法のような技能にまつわる記憶)

記憶障害において特に損なわれやすいのが、個人の思い出に関わりの深いエピソード記憶です。典型的な例としては、「何を食べたか忘れる」「食べたことすら忘れる」、「繰り返し同じ発言をする」などの症状があげられます。単純な老化によるもの忘れや認知症の症状とも思われがちですが、脳梗塞が原因で、記憶に障害が起こっている可能性もあるのです。

また、記憶障害は脳に損傷を受けた時点を起点として、その前後のどちらのものごとが覚えづらいかによって、2種類に分類されます。

・前向性健忘(※2)

脳に損傷を受けた時点から以後、新しいエピソードや情報を覚えづらくなる記憶障害です。全般的記憶検査、日常記憶検査、言語性・視覚性記憶検査などを行って障害の重症度や傾向を確認することができます。脳梗塞を発症してから何か新しい経験をしても、その記憶を保持することが難しくなってしまいます。

・逆行性健忘(※3)

脳に損傷を受けた時点より以前の記憶があやふやになる記憶障害です。ごく最近の記憶のみが欠落した軽度健忘から、ほぼ全ての記憶を喪失した重度健忘まで症状に個人差があります。逆行性健忘では、特にエピソード記憶を喪失する傾向が強くなっています。患者さんの過去の自伝的記憶を聞き出すことによって症状の程度を評価することができます。記憶の聞き取りを行う際は、「作話」に注意しなくてはなりません。作話とは、記憶を思い出せない患者さんが無意識に記憶の欠落を補うかのように偽りの記憶を創作し、あたかもそれが本当の記憶であるかのように思い出されること(当惑作話)を指します。したがって、逆行性健忘の患者さんに記憶の聞き取りを行う場合には、ご家族に記憶の正当性を確認してもらうか、時間をあけて複数回聞き取りを行い、回答が同じであるかを確かめるなどの手順を踏むことで、症状の程度を正しく評価することができます。

(※1)鈩 裕和, 身近な人が脳梗塞・脳出血になったときの介護と対策, 自由国民社,2017/6/16

(※2)玉岡 晃, 前向性健忘, 脳科学辞典

(※3)木下 彩栄, 逆行性健忘, 脳科学辞典

リハビリ方法

記憶障害においては、まずはテストを行って障害の程度や、記憶の欠落の範囲を確認したのち、さまざまな課題に挑戦していく形式でリハビリを進めていきます。課題は、本人の興味関心や職業に関連した内容のものから段階を追って進められます。内容は、反復訓練や物の組み立て作業、着替え、家事など日常生活の身の回りのことを含むもので、課題によって学んだことを実生活で役立てられるよう、リハビリ専門スタッフによって調整が行われます。

高次脳機能障害のリハビリは、1年継続すれば98%の人に症状の改善が見られたという結果がありますが、どこまで改善し、どのレベルまで社会復帰できるかは症例によって千差万別です。リハビリにおいては、障害の軽快を目指すことはもちろんですが、障害と上手く付き合っていくために他の手段で補う方法も同時進行で身につけていきます。障害がある状態で日常生活を不便なく送るためには、記憶を忘れないようにメモを頻繁にとる、約束や習慣の時間を忘れないようにタイマーをセットするなど、地道な努力が必要です。

接し方のポイント

記憶障害は具体的には目に見えづらい障害ですが、覚えているはずのことをどうしても思い出せないことは患者さんにとって大きなストレスとなるため、歯がゆい思いを抱え込む人が少なくありません。患者さんと接しているご家族の方も、「なぜ覚えられないの?」「もう忘れたの?」とついやるせない気持ちになってしまうケースが多いようです。

しかし、ご家族の方のやるせない気持ちが患者さんに伝わってしまうと、余計に焦ったり、イライラしたりして、リハビリの努力を諦めてしまう原因にもなります。患者さん本人も、周囲と同じように歯がゆさを感じていることを理解し、どうしてできないのか、と責めることは避けましょう。患者さんをサポートするご家族の方々は、患者さんの現状を十分に把握し、できることやまだできないことを把握したうえで根気強く接してあげることが大切です。

体験談

主人が34歳で脳梗塞を発症し、軽い身体麻痺と記憶障害が残りました。歩行トレーニングを重ねることで、身体麻痺は徐々に回復していったのですが、記憶障害がなかなか改善しなかったためリハビリを受けました。中程度の前向性健忘でものごとを覚えるのが困難になり、また注意力障害も併発していたため、社会復帰は困難かと思われました。しかし家族の励ましによって諦めずにリハビリ外来に通い続け、グループ療法や職業リハビリによる職業訓練で一歩一歩、できることを増やしていった結果、製造業に就職し社会復帰を果たすことができました。グループ療法や職業訓練によって久しぶりに社会との関わりを経験でき、内にふさぎこみがちだった気持ちが社会復帰に向けて前向きになったことが功を奏したのではないかと思います。

先輩はどのように立ち向かったのか

事例は異なりますが、脳梗塞に立ち向かった先輩方や、その御家族がどんな取り組みをされていたのかを知ることはとても大切です。脳梗塞で倒れ、現在は復帰してプロスカウトをされている、元プロ野球選手の「柏原純一」さんと奥様の体験談をご紹介いたします

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