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失行症|脳梗塞の後遺症を乗り越えるために

脳梗塞の後遺症を乗り越えるために~症状と対策法~

失行症

自分の意志と体の動きが一致しない症状を、失行症と言います。脳梗塞の影響による高次脳機能障害の一つです。ここでは、失行症の症状の種類やリハビリ法、周囲の人たちの接し方などについてご紹介します。

脳梗塞と失行症の関係

失行症とは、運動機能や認識機能、感覚機能などの障害とは別の問題が原因で、目的の行為をうまく行えない状態のことを言います。簡単に言うと、「自分がやろうとしていることと別のことをしてしまう」状態のことです。日常生活における具体的な例としては、たとえば次のようなものがあります。

  • ・箸をうまく使えない
  • ・着衣の着脱がうまくできない
  • ・フォークで味噌汁をすくって飲もうとする
  • ・無意識でやればできるのに、指示されるとできなくなってしまう

あくまでも、これらはほんの一例です。失行症の症状は千差万別で、患者さんによって、または状況によって様々な症状を発症します。繰り返しますが、いずれも運動機能、認識機能、感覚機能の障害とは別の問題が原因となって、これらのような症状を発症している状態です。

失行症の原因は、脳梗塞などによって脳細胞の一部が破壊されたことによる情報連鎖の齟齬。やるべきことは分かっているのに、その情報を脳が手足に伝えようとする過程で、何らかの情報伝達ミスが生じていることが原因です。

なお、失行症の症状は、観念運動失行、着衣失行、観念失行、構成失行など、いくつかのタイプに分類することができます。以下で失行症の症状について詳しく見ていきましょう。

失行症の症状

失行症の症状を具体的に挙げれば、それこそ無限にあります。症状を分類することが難しいのが失効症の特徴です。症状の傾向・タイプの観点から、いくつかの種類に分けて解説されることがあります。

・観念失行

モノを使用することができない状態のこと。左頭頂後頭葉に病巣がある場合に発症することがあります。

・観念運動失行

目的を認識しているにも関わらず、その目的に沿った行為ができない状態のこと。左頭頂葉に病巣が見られることがあります。

・肢節運動失行

手先を上手に使えない症状のこと。左右中心溝周辺に病巣がある場合があります。

・着衣失行

服の着脱がうまくできない状態のこと。右頭頂葉に病巣を見ることがあります。

・構成失行

形を構成することが難しい症状のこと。右頭頂葉に病巣が見られることがあります。

・視覚性運動失調

目に見えているものを手でつかむことができない状態のこと。頭頂葉や脳梁に病巣がある場合があります。

・拮抗性失行

両手を協働させられない状態のこと。脳梁膝部、脳梁幹前部、前頭葉内側面などに病巣が見られる場合があります。

リハビリ方法

失行症は、急性期のリハビリによって症状のレベルを軽くできることがあります。ただ一度発症してしまうと、リハビリを行っても、なかなか著しい改善が見られないことが一般的です。その症状があまりにも千差万別で、個性があり、そして一貫性に欠けることがあるため、患者全員が共用できる画一的なリハビリ法が確立されていないからです。

失行症のリハビリ法については、いまだ研究途上にありますが、その途上の中では、エビデンス(学術的根拠)は弱いものの確実に症状が改善した例はいくつか報告されています。その具体例として、以下、「脳卒中 J-STAGE 早期公開 2016年9月15日」に公表された事例論文を紹介します。

患者は82歳の女性。左頭頂側頭葉のアテローム型脳梗塞の影響で、軽い右半身麻痺、観念失行、観念運動失行などの失行症の症状が見られました。
患者は右利きだったのですが麻痺は軽度だったため、右手の運動機能にはほとんど影響がありませんでした。ただ失行症のため、右手を意志の通りに動かすことができない状態。何度も繰り返し右手のリハビリを続けたものの、一向に改善する予兆はありませんでした。
そこで、思い通りに動く左手で同じ動作を反復させてみたところ、やがて右手も思い通りに動くようになりました。これは、左手の正しい動きを通じて、右手が取るべき正しい動きが惹起されたと推察されています。

この例は、あくまでも失行症のリハビリが成功した一例の報告であって、医学的に有意な臨床結果とは言えません。ただし、症状のない側に正しい行為をさせることで失行症の症状が改善されたという論文は他に存在しないことから、今後の失行症のリハビリ研究における貴重な一例と位置付けられるでしょう。

接し方のポイント

失行症の方と接する場合に、絶対にやってはならないことが、誤った行為を過度に指摘したり訂正したりしない、ということです。本人は、やるべきことを認識しています。それに対して体が違う動きをしてしまうだけです。つまり、指摘や訂正をされなくても、その行為が誤っていることを自分で分かっています。分かっているのに、どうにもできない状態なのです。そこに敢えて他人から指摘を受け訂正を促されては、意欲低下、自信喪失、自暴自棄などに陥ってしまう可能性があります。

介助者がやるべきことは、まず、周辺に混乱するような情報を散乱させないこと。不要なモノを置かず、必要なモノだけを置くようにしてください。要するに、整理整頓です。
次に、本人に正しいことをさせるという発想から、本人の動作をさりげなく支援するという発想へと変えましょう。支援しながら同じ行為を何度も反復していると、誤った行動が少しずつ減ってくる場合もあります。 また、過剰に介助し過ぎないようにもしてください。自分でできることまで介助する必要はありません。過剰な介助は、本人の自立した機能を低下させる恐れがあります。

どのような状況でも、焦らず、イライラせず、本人のペースに合わせて接するようにしましょう。

体験談

かつて介護施設で働いていたとき、失行症を発症している方がいらっしゃいました。ご本人は、運動機能も認識機能も問題がないのですが、どうしてもトイレをうまく利用することができませんでした。男性でしたが、排尿の際に便器周辺にまき散らしてしまうのです。そこで考えたのが、狙うべき目印を付けるということ。色のついた液体の便器洗浄剤を目的の位置にたらし「あの色をめがけて排尿してください」と伝えたのです。この方法が功を奏し、以来、まき散らしは少なくなりました。その方の場合、的を狙うという脳からの指示に対しては、体が正しく反応できたようでした。

先輩はどのように立ち向かったのか

事例は異なりますが、脳梗塞に立ち向かった先輩方や、その御家族がどんな取り組みをされていたのかを知ることはとても大切です。脳梗塞で倒れ、現在は復帰してプロスカウトをされている、元プロ野球選手の「柏原純一」さんと奥様の体験談をご紹介いたします

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